おまじないの意外な効果


注意書き

  • 沖田→→ ←千鶴 ←斎藤な感じですが
  • 沖千両想いな感じの話しです(一ちゃん、ごめん)
  • 沖田が労咳を患っていることを知ってしまった以降の話です

医者に行った帰り、多くの人の行き交う橋の上で千鶴ちゃんを見つけた。
人の流れに反して、彼女は立ち止まり、うつむき、何かをやっている。
周りに新選組の姿はない。

不思議に思った僕は、彼女の元へと急いだ

千鶴ちゃんのすぐ傍に来た。
だけど彼女は僕に気がつかない。

彼女の後ろにいるんだから、まぁ、当然か……
そう思って僕は小さく笑う。

気配を消し、そっと彼女に近づいて。
背後からゆっくり手をのばす。

「ちーづるちゃん!」
「わっ!」

僕の腕の中の彼女は真っ赤な顔で振り返る。
視線がぶつかると、困り顔で口を開いて僕の名前を呼んだ。

「お、沖田さん……」

思ったとおりの反応。
やっぱり君は面白いね

「何やってるの?」

彼女を捉えたまま、僕は単刀直入に疑問をぶつける。
もし勝手な行動をしているようであれば彼女を……

「あの…えっと…」
「答えられないようなこと?」

彼女は言葉に困っていた。
まぁ、もし脱走でも考えているのならこんなところでグズグズしてないか……

「笑わないでくださいね…」
「何を?」
僕は悪戯に彼女を覗き込む。

「な、何をしてたのか話すので離れてくださいっっ!」

そう言って彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。

その顔、その反応…
僕に気があると思ってもいい?

ますます放したくなくなるじゃない

でも――
今はこの辺で解放してあげる
周りの人もいぶかしむように僕たちを見てるし、ね

「……で、何をしてたの?」

少し距離を置いて僕はもう一度疑問をぶつける。
千鶴ちゃんは警戒してるような目で僕を見て。

「おまじないを……してました」

そう答えた。

「おまじない?」
「はい…」

意外な返答に僕は軽く首を傾げる。

「どんな?」
「この、擬宝珠に……」

そう言って彼女は欄干の柱の上部についてる装飾物を指差す。
よく見ると、白い紙が巻かれてある。

「願いごとを書いた紙を結びつけるんです、そうすると願いが叶うって」
「ふーん、そうなんだ」

彼女は小さく頷いた。

そんなことしたって叶うわけないのに……

「少しでも……、その……。大切な人の、願いが叶うといいなって思ってるんです」

彼女の願いごとの書かれた紙は、ちょっとやそっとのことでほどけないようきつく、しっかりと結ばれていた。

「……そう」

彼女は
大切な人のために
どんな願いをしたんだろう
そんな目をして……

「こんな所にいたのか。探したぞ」
「斎藤さん!申し訳ありません!!」

振り返ると僕の後ろには一くんがいた。それに三番隊の皆もいる。
気づかなかった。

「総司、いたのか」
「うん。お疲れ様、一くん」

僕は彼を見て、いつものようににこ、と笑った。

「今日は非番だったか」

彼はいつものように無愛想に答える。
でも、少し機嫌が悪そう

僕が彼女と二人っきりだったから……?

「何もすることがないから、京の街をぶらついていたところ」

医者に行ったことは伏せた。
また小うるさいことを言うに決まってるから

「平隊士に剣術の指南でもしてやったらどうだ?暇なら」
「一応巡察も兼ねてるんだよ?ほら。一人、不審者を見つけたし」

そう言って僕は千鶴ちゃんの手を握った。
一くんに見せ付けるように。
彼はちょっと眉を顰めた。
明らかな一くんの反応。
僕は心の中で一人笑う。

「雪村、行くぞ」

僕をたしなめるような一くんの視線。

「それじゃあ沖田さん、失礼します」

千鶴ちゃんの手がするりと離れていった。

「うん、じゃあね」
僕は軽く手を挙げてそれに答えた。

どれくらい時間が経っただろう。
彼女と、三番隊の姿はすっかり見えなくなっていた。
僕は一人欄干にもたれ、さっきの彼女の真っ直ぐな瞳を思い出していた。

誰のために、何をお願いしたんだろう……

手は自然と伸びていた。
僕は擬宝珠に結ばれた紙を無言で解いていく。

きれいに折りたたまれた紙をゆっくり開きながら

ごめん……
千鶴ちゃん

そう小さく謝った。


日も暮れ、僕は屯所に戻った。
自室の障子を開くと、千鶴ちゃんが小さな体でせっせと働いていた。
どうやら僕が留守の間に掃除をしてくれていたようだ。

「お戻りですか、沖田さん」
「うん。もうすぐ夕餉の時間だしね」
食欲はなかったけど、こうでも言わないと彼女はまた僕の体の心配をする。

「しっかり食べてくださいね」

僕の言葉に安心したように、彼女はとびっきりの笑顔をこちらに向けた。

そんな顔、しないでよ……

「あ。すみません、掃除、すぐに済ませま……っ!!」

そう謝罪する彼女の体を、僕は強引に引き寄せて。
壊してしまいそうなくらい、力いっぱい抱きしめた。

抵抗する千鶴ちゃんの言葉なんて聞く気は一切ないから……

「は、離してください!」

それは本心……?
じゃないよね

「お、沖田さん!!」
「ありがとう」

僕は真っ赤に染まった彼女の耳元でそっと感謝の言葉を紡いだ。

きっと、良くなるから……

そう千鶴ちゃんに、僕の胸に誓った

あとがき

擬宝珠に紙を結ぶおまじないが江戸時代に流行っていたそうです。
千鶴ちゃんは”沖田さんの労咳が早く良くなりますように”そう書いていたってことでここはひとつ。

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