のんすとっぷ


注意書き

  • 沖田→→千鶴←やや土方話
  • BLではないのですが、そう捉えてしまう方もいる展開になりますので苦手な方は読まれませんように

千鶴は竈の前に立ち、夕餉の支度をしていた。
お玉に汁物をすくって味を見てはもう少しお塩が…とさっきからぶつぶつ言っている。
そこから少し離れたところでは、見張り役の沖田が手よりも口ばかりがたくさん動いている千鶴の姿がおかしくて、飽きずに眺めていた。

「うん。よしっ!」
どうやら汁物の味が確定したのか、千鶴はお玉を置いた。

「えーっと次はネギを…」
キョロキョロと辺りを見回し、かごに入ってあったネギを手に取り千鶴はまな板へ置く。
今日のネギはいい色だな…と呟いたとき、沖田が噴き出した。

「…!」

「こっちだよ、千鶴ちゃん」
見ると勝手口の前に立ち、笑っている沖田がいる。

「君、見てて飽きないよ、ほんと」

この時間の見張りは沖田さんなんだっけ…。
でも、別に笑うことないのに……
千鶴は自分が笑われていることを少し不服に思った。

「ねぇ、君さ…口動かしてないと料理できないの?」

口を…動かす…?

「…あ……あの…もしかして独り言言ってました…?」
「うん、ずっとね」
沖田は間髪いれずに笑顔で答える。

「その…すみません」
真っ赤な顔をして千鶴はぺこりと頭を下げた。
沖田が監視していたことは理解したものの、独り言を言いながら料理していたことを指摘されたのがとにかく恥ずかしい。
彼だから余計に、なのだろうか。

「謝らなくていいよ、僕は僕で退屈せずに済んでるんだから」
「……はぁ…そうですか…」
出会った頃と変わらず、どこか冷たくあしらう沖田の態度に「慣れよ、慣れ…。気にしていたら負け」と気合いを入れ直し、千鶴は再度ネギに向き合った。

トントンと規則正しく包丁を下ろし慎重にネギを刻む。

「ふーん。千鶴ちゃん、料理、上手なんだ?」
「昔か…っ……!」
いつの間にか自身の後ろに立ち、肩越しから覗き込んでいる沖田に驚き、迂闊にも彼女は包丁を手放してしまう。
それを受けようと手を伸ばしたとき、刃の部分が人差し指を掠ったらしい。
指先に出来た赤い筋から少しずつ血が溢れている。

「何やってるの?死ぬ気?」
千鶴の足元に転がる包丁を拾いながら沖田が小首をかしげる。
「……すみません」
「もし君が出血多量で死ぬようなことになったら…僕も士道不覚悟で切腹ものだよ?僕にはまだやることがあるから、それはごめんだな。
 自害するなら余所でやってよ」
おどけながら沖田は言う。

「気をつけます…」

千鶴は自分の軽率な行動を恥じた。
私は男として新選組に置かせてもらっている。
近くに沖田さんの顔があったからってあんな風に驚くのでは、私は女です…って公言しているようなものじゃない。
それに落ちる刃物に手を伸ばして……間抜けだ、私……

っ…!

突然の、指先への奇妙な感触に我に返る。見ると目の前には猫のように自分の指を舐めている沖田がいた。

「お、沖田さん…!」
「唾つけとけばすぐ治るよ」
「や、やめてください!!」
「僕も昔、近藤さんにやってもらってたから…」
「そういう意味じゃなくて…!」

「おいてめぇら、何やってる!!」
千鶴の不審な声を察知したのか、土方がすごい剣幕で入ってきた。

「何って…傷の手当てですけど」
土方とは対照的に、沖田は、千鶴の傷ついた人差し指をヒョイと持ち上げ、ほらと笑顔で答えている。

「自分で唾つけときゃいいじゃねぇか、なんでお前が…」
「まぁ、僕のせいでもあるんで」
「あ、あの…誤解を招くような言動、本当に申し訳ありません」
千鶴はすぐさま頭を下げた。
「わかった…、もういい」
そう言っている割には腹の虫がおさまらないのか、土方の表情からは苛立ちが読み取れる。

「もしかして……土方さん、焼き餅ですか?」
にんまり笑顔で沖田は問う。

「……なんで俺が…」
今にも破裂しそうな怒りを内に秘め、冷静に努めようとしているのは誰の目から見ても明らかだった。
それに沖田の冗談に付き合うと、とにかく後が面倒くさい。
「近藤さんがお前を呼んでる。さっさと行って来い」
厄介ごとはごめんだとばかりに用件だけを伝え、土方は沖田を追い払いにかかる。

「それじゃあね、千鶴ちゃん」
沖田は意味深な笑顔で挨拶すると、今しがた土方の入ってきた勝手口に向かって歩き始めた。

「あぁ、近藤さんは道場にいる…」
すれ違いざま、そう告げる土方に沖田はそっと囁いた。

「……土方さん、千鶴ちゃんに嫉妬してるんだ、可愛い人だな」
「はぁ……!?なっ!」
凍りつくような台詞の後、追い討ちをかけるように沖田は色白な土方の頬をぺろと舐めた。

千鶴も、当の土方本人でさえも一瞬何が起こったのか、何をされたのかわからなかった。
それくらいすさまじい威力の衝撃波を二発、沖田から受けたのだから……

してやったりという満足気な表情で沖田はその場を後にした。
彼お得意の乾いた笑いと、土方とのさらなる禍根だけをその場に残して。

この後、さらに両者の対立が深まったのは言うまでもない

あとがき

沖田さん、人を煽るのが三度の飯(酒?)より大好きな人だからって理由で、また、それを表現したくて書いた話なのですが、注意書きにも書きましたけどそのままの意味で本文を捉えてしまう人もいるんじゃないかなぁって心配なんですが大丈夫でしょうか😖語彙力が乏しいのでそっちに捉えてしまう方がいないことを祈るばかりです。

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