屯所事件簿その①春本編


注意書き

  • 幹部隊士のみの登場です
  • 近藤さんのイメージがひどく崩れています
  • 春画ネタのただのギャグ話です

剣術の稽古も終わり、斎藤は自室へと続く廊下を一人歩いていた。
稽古場からは未だに荒々しい音が聞こえてくる。
木刀を打ち込む音や威勢のいい掛け声を聞き、先日入隊した者たちは気概があっていい…そう口元を緩めたとき、斎藤は廊下に置かれてある、ある物に我が目を疑った。

「……何故、このような物がここに…?」
斎藤は首を傾げた。

彼の視線を一瞬にして奪ったある物…

その本の表紙には男女の情事最中の姿絵。
俗に春画と呼ばれる物である。

「……。」
斎藤は現在でいうエロ本をジッと見つめている。
その間全く微動だにせず、表情も変えず。

その斎藤の様子を物陰から伺うもの三名。
藤堂、永倉、原田の3馬鹿トリオだ。

「おっ、かかった♪」
藤堂が楽しげに声を上げた。

「うーん、どうする?斎藤」
永倉は顎に手をあて首を捻っている。

「まっ、あれでアイツも男だからな。こっそり持ってくんじゃねぇの」
ニヤニヤしながら原田も続く。

が、次の瞬間――

「………えっ!!」
「………なん…で!!?」
「………マジかよっ!!!!」

一瞬の出来事に呆気に取られる三人の男たち。

チンッ

心地よいその音は刀を鞘へと収めるものであった。
斎藤の足元には真っ二つになった春画本の哀れな姿。

「……不要なもの…」
と捨て台詞を残し、斎藤はその場を後にした。

斎藤の後ろ姿を、感心しながら見送る三人。
だが、まだまだ盛んな年頃である。
こういった類の物にもう少し興味を持ってもバチは当たらないだろうと生真面目すぎる斎藤を不憫にも思った。

「……まぁ、らしぃといやぁ、らしぃが…な…?」
原田がため息交じりに呟く。

だけど斬らなくてもいいだろ…

「誰かさん達と違って、遊びに行くこともないみたいだし…」
感心、感心!と藤堂は斎藤とは対照的な二人を見て笑う。

「なんだぁその目は、平助!」
「アハハハ!左之さん図星だろ!って……あれ……?どうしたの新八っつぁん、そんな考え込んでさ」
いつもは原田と一緒にムキになる永倉が何やら思案している。

「……なぁ」
神妙な面持ちで2人を見つめる永倉。
藤堂も原田もそんな永倉に感化されたのか、静かに続きを待った。

「もしかすっと……斎藤は……あっちの気があるってこと…か?」
くっと親指を立て、 いつになく真面目な顔で斉藤衆道説を提案する永倉。

「………いっ!!やっ、やめろ新八!何だか身震いが…」
「そ、そうだよ新八っつぁん!一くんに限ってそんな…」
「いや。わかんねぇぞ、おめぇ………、なーんてな!」
原田も藤堂も、そして言いだしっぺの永倉も、ちょっとだけ嫌なものを想像してしまった。
斎藤が、一くんがそっちの人、だったりする…とか。

人の好みにどうこう言うのは、いつの時代でも野暮ではあるが

「…もう冗談きついって……。あ…新八っつぁんの本さ…、見事に仏さんにされちまったねー」
真っ二つにぶった切られた春画本に目をやり、続いて永倉に視線を移す藤堂。
その目にはエロ本の持ち主に対し、同情の色が浮かんでいる。

先刻――
藤堂がその本を手にした際、手垢だらけで読み込まれた感が多分にあった。
きっとお気に入りの一冊だったのだろう…彼はそう思っていた

のだが……

「あぁ?何言ってんだ?ありゃぁ俺のじゃねぇよ?」
「………へ?」
友への哀れみは一瞬にして打ち消された。

「…えぇぇっ……!!!!じゃあ左之さん、の…?」
永倉の否定に動揺する藤堂。

「ちげぇよ。俺は興味ねぇもん、あんなもん。俺は断然…こっちだな」
クイッとお猪口を口元へ持っていく仕草を見せる原田。

「………そ…だね…」
「おい…平助。お前、あれ……どっから持ってきた?」
巡り巡って本を持ってきた平助を問いただす永倉。

とにかくこの三名の私物でないことは明らかである。

「……あそこの…部屋の前……、廊下に置いてあったけど…」
少し離れた廊下へと視線を向ける藤堂。
続いて原田、永倉も春画本の元あったその場所をジッと見る。
そこは誰かの個室の前だった。
個室が与えられているのは幹部隊士のみ。
その現状から考えるに、新選組幹部のうちの誰か…の色本ということになるだろう。

「おめぇ誰のモンかわかんねぇのに持ってきたってのか!」
「そんな怒んないでよ……。だってこの悪戯やろうって言いだしたの新八っつぁんだし…。だから……」
新八っつぁんの本かなぁって…
非難の集中砲火を浴びせる永倉を伺うように見つめる藤堂。

「あぁっ!?おめぇが持ってんだから、おめぇのモンだと思うだろ、フツー!」
「人様の春本で悪戯しようなんてフツーは思わねぇっての!!!」
「なんだよ、俺のせいだって言うのかよ!元はと言えば…」

藤堂、永倉の埒があかない押し問答が続く最中――

「……ってか、あの部屋って…」
嫌ァな物を見る目で原田が呟いた。

『………。』
皆、しばしの沈黙。

『お、鬼副長…!!』
庭先に三人の声がこだました。


近藤の私室にて。

「なぁ、トシ………」
そう声をかける近藤はひどくしょぼくれていた。
近藤の前には先ほど鬼副長と呼ばれていた土方の姿もある。

「どしたァ、近藤さん?」
手元の書状から近藤へと視線を移す土方。
近藤のこの落ち込みよう、ただ事ではない。

「あー、いやー、あー、んー、うー、いやー何でもないんだ…」
「何でもねぇって面じゃねぇだろうが」
「あー、うー、あー、だがなぁ……」
決心がつかないのか、その先を口にしようとはしない近藤。

「大将がそんな顔してたら、隊士たちの士気に関わる。近藤さん、何があった?」
俺は近藤さんを、いや、この新選組局長を陰から支えるって決めてんだよ。
だから話してくれ…と土方は心の中で囁いた。

うなだれる近藤が一言

「本が…ない」
と漏らした。

「…ほっ、本?っと…あー、あのいつも読んでる軍記物のかい?」
意外な一言に呆気にとられる土方。

“泣く子も黙る新選組”と京の人々から恐れられているその局長が 本がない…と沈んでいるのである。
京の人間がこの姿を見たらどう思うだろう……

ま、勝っちゃんらしいかと土方は心の奥で笑う。

「いや…もっと大切な…」
近藤は首を縦には振らず、暗唱できる程に読みふけった軍記物以上に大切な本だと訴えた。

もしかすると会津藩より拝借した資料か何かだろうか、土方は思いを巡らせる。

だとするとどうすればいい…

土方は真っ直ぐな瞳で近藤を見つめる。

こうも新選組局長を沈ませる本とは一体何だってんだ…?

だが、その答えは意外なものであった。

「…春画本が………」

春画=男女の情交を描いた姿絵(ya●oo!辞書より)なのだが。

「春画本か…。そうか……」

は……?

「……しゅん……が……はあっ!??」
開いた口が塞がらない。
春画とはどういった類のものか、一瞬だけ考えてしまった自分が情けない。

隊士の士気に関わる春本ってどういうものだよ……

土方はしばし考え、「そうか」とだけ返事をした。
こんなときにかける言葉が見つからない。
正直なところ、色本に手を出すほど土方は飢えていない。
花町に行けば、女の方から寄ってくる。
そんな自分がどう声をかければ近藤さんを傷つけずにすむ?
ここはひとまずそっとしておこう、そう思い、土方は脇に置いてあった大小を手に立ち上がった。

障子に手をかけ、今まさに部屋を出ようとした瞬間――

「トシぃっ!あれは!あれはだな…、お気に入りの一冊だったんだよぉっ!」
退室しようとする土方の袖にものすごい形相ですがりつく近藤。
目には涙。鼻からは鼻水。

大事な一冊というのがひしひしと伝わってくる。
嫌でも。

「……ぃっ!また買えばいいだろうが、買えば!着物を離せ!頼む!俺から離れてくれ!!」
土方も負けじと袖を引っ張る。
だが近藤は聞き分けのない幼子のように袖を離そうとはしない。

「トシよ、聞いてくれ……。あれはだな…もう…売ってねぇんだよ…う゛ぅっ」
涙もろいとよく言われた近藤。
本日も大泣きのご様子だ。

「ンなこと俺が知るかっ!!巡察に行ってくる!」
やっとのことで土方は近藤の私室を後にした。

「あーぁ、この本どうしよ…」
藤堂は真っ二つに割れた本をくっつけたり離したりしながら縁側で足をぶらぶらさせていた。
どうにもくっつく気配はない。

「どうしようもねぇだろ…」
その隣でぶっきらぼうに答える原田。
永倉は巡察に出てしまってここにはいない。

空を見上げると、2人の心情を表しているかのようにどんよりと曇っている。

「よしっ!決めた」
藤堂がそれぞれの手に春本の片割れを持ち、立ち上がった。

「決めたって…何を…」
急に晴れやかになった藤堂をいぶかしむ原田。
神通力でも使えねぇかぎり、本は元に戻んねぇょ…とぼやく。

「だからさ…真っ二つになったもんは元に戻んないだろ…」

適当に頷く原田。

「俺たちの他には誰も見てないわけだし」

明らかによからぬことを企んでいる友人を横目で見る原田。
藤堂が何をしたいのか…なんとなく見えてきた。

「土方さんは女に困ってるわけじゃないし…」
「全くだな…」
今度はしっかりと首を縦に振る原田。

「こっそり捨てちゃおうぜ!よしっ…!善は急げだ!!」

悪だろ、今回の場合。

『今のうちに…』
原田と藤堂が顔を見合わせ、声を揃えニヤリと笑った
そのとき――

「おい!おめぇら!何やってんだ!」
「ぬぁぁぁっ!!ひっ、土方さんっ!!」
不穏な動きを察してか、はたまた先ほどの一件のせいか激しい剣幕で藤堂たちの下へ近づく土方。

ヤバ…!
咄嗟に本を隠す藤堂。

ここでバレたら切腹…かも。
なんかものすごく機嫌悪そうだし…

「きょ、今日はいい天気だから日向ぼっこでもしようかなーって」
威圧的に自分達を見下ろしている土方にとりあえず適当な理由を告げる藤堂。

「おっ、おぅ!気持ちいいよな、お天道様…!」
原田の声は上ずり、鳩のように首をカクカク動かしている。

空は相変わらずの曇り空でお世辞にも日向ぼっこ向きの天気とは言えないのだが。

「………そうか」
土方はそれ以上何も詮索せず、自室に入っていった。襖を閉める音がいつもよりも激しい。
相当機嫌が悪いと見える。

日向ぼっこと言った手前、もうしばらくはここにいようと暗黙の同意をする二人。

背後にある土方の部屋からは、しきりに春本、春本…と読経のような声が聞こえていたという。


次の日。

「全員、集合してくれ…」
朝の稽古の時間、土方が顔を出した。
その表情はどこか険しい。

「なぁ、やっぱ昨日のアレ…か?」
原田が額の汗を拭いながら小声で話す。

春本が行方不明で機嫌が悪い…
まさか、な……

「ほら…!長州関連のきな臭い情報を掴んだとか…って可能性も…」
あるといいな…、と不謹慎な言葉を漏らす藤堂。

あのエロ本と土方の機嫌が無関係であることを願うばかりである。

「…っと、そういやぁ結局どうしたんだ、あの本?」
腰を下ろしながら、エロ本の末路を永倉が尋ねる。

「あぁ、あれね…河原町に捨ててきたよ」
永倉の隣に座り、疲れきった顔をした藤堂が答える。

昨日、藤堂と原田は、太陽の出ていない空の下、日向ぼっこのふりを半刻程続け春本をこっそり河原町の道端へと捨ててきたのであった。

「ま、ここで捨てるわけにもいかねぇしな…」
冷たい板間をチョンチョンと叩き、原田が言う。

「おい!そこ三人。私語は慎め…」
藤堂達を一睨みし、土方はコホンと咳払いをした。

「おいおい…ありゃ、相当機嫌が悪いな…」
眉を寄せ、原田がぼやく。

「昨夜…この本が河原町に捨てられていた」
土方が手に持っているのは昨日真っ二つにされたあの春画。

(ぃっ……!!)
3馬鹿トリオは凍りついた。
呪いの人形ならぬ呪いの春画……
捨てても捨てても幾度も持ち主の元へと戻ってくる怪談話が頭をよぎる。

「昨夜、巡回中の斎藤くん達が発見してくれた。恐らく……何者かによって盗まれた、近藤局長の物と思われる」

え……土方さんのじゃないの?
いや、そもそも何で廊下なんかに置いてあったんだ。
あぁいうモンは部屋の中に置いておけばいいだろう。

だけど”盗まれた”って、他に関わってるヤツがいるってことだよな…?
土方さんの部屋の前に置いた誰かが……

藤堂、原田、永倉の三人は土方の私物でなかったことに安堵しつつも、真犯人について考えを巡らせる。

その三人の横では
「太刀筋から見て、俺が斬ったものに間違いない」
と、淡々とした口調で斎藤が報告を告げている。

「昨日…もしかするともう少し前かも知れないが、何者かによって近藤局長の元から盗まれ、なぜか廊下へ放置。そして斎藤に斬られ、誰かが河原町に捨てた……」
土方はこの春画に起きた事の顛末を話した。

盗んだ奴もだが、斬った斎藤さんも悪いだろ…と思った平隊士が複数名いたが幹部の行動には流石に意見できない。

「盗んだ下手人を捕らえたいところだが…」
この土方の言葉に、藤堂たちはゴクリと唾を飲み込む。

「おめぇら!京都中駆けずり回って、これと同じもん買ってこい!!」

元治元年・四月――
ここに副長独断の隊命が下った。

エロ本買ってこい……と。

「いえ、副長。その必要はありません」
呆気にとられる隊士達を余所に、本をぶった斬った下手人の斎藤が涼しい顔をして立ち上がった。

「ここに…」
土方の元へ歩み寄り、懐から何かを取り出す斎藤。

「こっ、これは…!」
紛れもなく、近藤お気に入りの春画と同じものがそこにあった。
斎藤の肌の温もりがわずかだが残っている。

(えーーー!!)
これに驚く3馬鹿トリオたち。

「……てか、なんで斎藤が持ってんだよ?」

「ま、まぁいいじゃねぇか、俺達助かったっぽいしよ」
永倉の言葉に原田が続く。

「うん…そーだね……」
ぽかんと口を開けた藤堂がゆっくりと頷く。

この様子だと、どうやらお咎めもなさそうだ。
それに春本探しの隊務なんて正直やりたくないし…

「私用で一冊持っておりましたので、これを局長に…」
土方と斎藤のやり取りは尚も続いている。

「いいのか、斎藤くん…」
少しだけ角が折れている春本に目をやり、土方は感慨無量といった面持ちである。

「…是非とも」
斎藤は眉一つ動かすことなく、ロボットのように頷いた。

これにて春画事件、一件落着。
といきたいところだが、このやり取りを冷ややかな目で見る者が一人。

「あれぇ、おかしいな…」
変だ、と口を開いたのは沖田だった。

「何がだ、沖田くん?」
おかしいと訝しむ沖田を”くん”付けで呼ぶ斎藤。
隊士たちの前では幹部同士こう呼ぶことにしている。

「その本。僕が土方さんの部屋の前に置いたんだけど」
悪びれる様子もなく、しれっと沖田は答える。

「いつも頑張ってる土方さんに、少しでも息抜きしてもらいたいな…って」

「………は?」
土方の表情が一気に曇る。

「…そう近藤さんが言ってたから、僕は気を利かせたんだけど…」
黙って持ってったのはまずかったかなと頬をぽりぽりとかく沖田。
その表情を見るに反省の色は見えない。

「でも……”盗んだ”なんて、泥棒扱いはやめてほしいな、副長?」

(……やっぱ、てめぇか…)
土方は怒りで顔をひきつらせている。

「だが……なぜこちら側の廊下に落ちていた?」
土方の私室と斎藤の私室は建屋が違っている。 誰かが移動させたということか?と斎藤は付け加えた。

「…うん……ねぇ、藤堂くんは何か知らない?」
にんまり笑顔で藤堂を見る沖田。
その顔は何か知ってるよね、と言わんばかりである。

「えぇっ!おっ、俺……!?」
この件には無関係で通そうと思っていたところに沖田のこの言葉。
慌てふためく藤堂。

完全にばれてるよね、これ……

「うん。他に藤堂って人いないよね…ここには」
わざとらしく沖田は周囲を見渡す。確かに藤堂姓は平助一人だ。

「…何か知っているのか?」
斎藤も藤堂に確認をとる。

「えっと…その……」
一くんを試した…だなんて言えないし……

「藤堂くん、キミは何か知っている様子。正直に話した方が身のためだ」
大真面目な顔で、藤堂の肩をぽんと叩く原田。今夜、一杯おごってやるから…と、こそっと耳打ちする。

「そうなのか、藤堂くん…?嘘は、嘘はだめだ…!」
ほら、この前言ってたお姉ちゃんとこ連れてってやっから…と永倉も逃げに転じる。

「う、嘘ってなんだよ……!元はと言えば、新八っつぁんが言い出したんだろ!この春本を前に一くんがどういった行動に出るかって!!」

「…何だと?」
斎藤の眼差しが鋭く光る。

「土方さんへの差し入れの邪魔をしたのは藤堂くんたちか…」
ふーんと沖田は笑っている。

「へっ、平助、黙れっ」
わめき立てる藤堂の口元を必死で押さえる永倉。
その行動は藤堂の発言に、嘘、偽りがないことを公言しているようなものであった。
その隣では永倉の行動に呆れ、原田が重いため息をついている。

「…廊下に捨て置けば隊規が乱れ……」
騒がしい藤堂、永倉を尻目に斎藤は淡々と斬った理由を告げる。

「でもよ、別に斬らなくてもいいだろうが」
男所帯の新選組とはいえ、まさか一冊の春本を巡り、私闘なんてこともないだろうが…と、原田が斎藤の行動を非難する。

「そうだよね、僕もまさか斬っちゃうとは思わなかったよ」
真犯人の沖田はハハ…と乾いた笑いを漏らし、原田に賛同する。

『見てたのかよ!!!』

一般の隊士や土方がそれぞれの職務へと戻る中、一部幹部たちの醜い争いはしばらく続くのであった


後日。

まさか自分の春画本がこのような事件に巻き込まれていたとは露知らずの近藤は、手元に戻ってきた春画をニコニコしながら抱えていた。
その横には土方の姿がある。

「なぁ、トシよ」
「どしたァ、近藤さん?」
今しがた勘定方から預かってきた帳簿に目をやりながら土方は相槌を打つ。

「失くしたと思ってたこいつが出てきたんだよ、ひょっこりと」
無邪気に笑い、手元のエロ本を自慢げに見せる近藤。

「…そりゃぁ良かったじゃねぇか」
それのお蔭で大騒動したんだぜ、ったく… 。
ま、アンタが元気になってくれて良かったよと、土方は先日の出来事を思い出す。

「あぁ。そこでだ、これをお前に貸してやろうと思ってだなぁ」
実に楽しめるぞ、この本は!と太鼓判を押し、近藤は例の春画本を差し出した。
その目は”京で一旗揚げよう”と、共に誓ったあの日のようにキラキラと輝いていた。

あとがき

一くんも男だったということで。
そしてこのお話の近藤さんは、千葉〇歩さん(銀魂の近藤さん)の声で必ず再生されてしまいます笑。薄桜鬼の近藤(大川)さんファンの方ごめんなさい。

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